#18 可憐な高山植物を探しに畳平へ

お花は山に登る楽しみの一つ。可憐に咲く高山植物を見つけると、心に灯がともるような嬉しさを感じる方も多いかもしれません。乗鞍岳も高山植物の宝庫です。7月中旬~8月中旬に、標高2700mの「畳平」へ上ると、「天空のお花畑」とも呼ばれる高山植物のお花畑が広がり、毎年たくさんの高山植物ファンを喜ばせてくれます。ここでは、畳平周辺で見られる高山植物の楽しみ方をご紹介します。

❶ シャトルバスに乗って畳平へ

乗鞍高原観光センターから乗鞍岳シャトルバスに乗ると、エコーラインを通って約1時間で「畳平」バスターミナルへ到着します。バスターミナルの脇から階段を降りて行くと、色・形も様々、個性的で可憐な高山植物に出会えます。

バスターミナル脇から階段を降りると、お花畑を一周する木道が整備されています。その木道を約15~20分ほどテクテクと歩いて一周しながら、高山植物の花々を見て楽しむことができます。

※2021年7月現在、畳平の木道は落石による影響で、一周はできません。

❷ 畳平周辺で見られるお花

高山植物は見るだけでも楽しいものですが、「あの花」「その花」ではちょっと勿体ないかもしれません。名前を知ったり、どんな植物なのかを知ると、お花を見つける楽しみが大きくなり、より愛着がわくことでしょう。ポケット図鑑やルーペを持って出かければ、その場で同定ができて花観察をもっと楽しめます。

ここでは、お出かけ前にチェックしておきたい、畳平周辺で見られる代表的なお花をご紹介します。

チングルマ

チングルマ

チングルマはバラ科の低木で樹高はわずか5cm程。山岳地に見つかる水が豊富な湿原や、雪解け水が十分に確保できる雪渓などに好んで咲きます。花言葉は「可憐」。
見頃:7月~8月
チングルマ綿毛

チングルマ(開花後)

チングルマには、まるで2回目の開花のように見える特徴があります。開花後、綿毛とも呼ばれる花柱を開き、これが花名の由来にもなっています。
見頃:9月頃
キバナシャクナゲ

キバナシャクナゲ

常緑の低木で、枝が曲がっていて真っ直ぐな部分が1尺にもならないことから「シャクナシ」、これがなまって「シャクナゲ」と呼ばれるようになったとか。花言葉は「威厳」。
見頃:7月
クロユリ

クロユリ

黒っぽい花を咲かせる植物は少なく、このクロユリも希少な花です。花言葉は二つ。アイヌの伝説に由来する「恋」と、富山県に伝わる伝説に由来する「呪い」があります。
見頃:7月~8月
ハクサンイチゲ

ハクサンイチゲ

高山に夏の訪れを告げるハクサンイチゲ。石川県と岐阜県にまたがる白山で最初に見つけられたことから、その名がつきました。花言葉は「清潔」と「幸せを招く花」。
見頃:7月~8月
コバイケイソウ

コバイケイソウ

背が高く白い穂が目立ちます。花は毎年咲かず、3~4年に1回程度しか咲きませんが、豊作の年に当たると、圧倒するほど見事です。花言葉は「遠くから見守っています」。
見頃:7月~8月
コイワカガミ

コイワカガミ

イワカガミの高山型。鮮やかな色をした花も特徴的ですが、「岩鏡」の名前のように、葉が鏡のようにツヤがあるのが季節を通して目立ちます。花言葉は「忠実」。
見頃:7月~8月
イワツメクサ

イワツメクサ

高山の砂礫地や岩場に生育します。花びらが10枚あるように見えますが、中央に深い切れ込みが入っているためで、実際には5枚。花言葉は「初恋」・「奥ゆかしさ」。
見頃:8月
ヨツバシオガマ

ヨツバシオガマ

高山の岩場や草地に生育。名前の由来は、葉が4個輪生するからヨツバ。シオガマは海水から塩をつくる竃のことで「葉まで(浜で)美しい塩竈」にかけた。花言葉は「誘惑」。
見頃:8月
アオツノガザクラ

アオノツガザクラ

葉の形が針葉樹の ツガ  に似ていて、花が黄緑色をしているのでアオノツガザクラ(青の栂桜)。身の丈10~20cm程度ですが立派な樹木です。花言葉は「臆病」。
見頃:8月
イワギキョウ

イワギキョウ

つり鐘のような形をした青紫色の花を横向きに咲かせます。主に岩場に生育し、キキョウの高山種であることから名前がつきました。花言葉は「誠実な恋」。
見頃:8月
ミヤマダイコンソウ

ミヤマダイコンソウ

「深山大根草」は葉が大根の葉に似ていることが名前の由来です。岩場や礫地に生育。秋になると葉は紅葉し、新雪が降る頃まで岩場を彩ります。花言葉は「幸せを招く花」。
見頃:7月~9月

※お花は気候や日照条件により開花時期が前後します。
※高山植物の写真提供:筒木 秀子さん

❸ 高山植物の女王 コマクサ

高山植物の中でも、ひと際存在感を放つのが「コマクサ(駒草)」です。コマクサは、常に砂礫が動いて他の植物が生育できないような厳しい環境に単独で自生し、十数年かけて美しく可憐なピンクの花を咲かせます。その孤高の姿は、「高山植物の女王」と呼ばれるにふさわしく、多くの人を魅了します。

コマクサ

コマクサ

日本の代表的な高山植物で、可憐ながらも力強い植物です。痩せた土地でも水や栄養分を取るため、そして雪解け水などで砂とともに流されないために、その根は地中深く・広くまで伸ばしています。また、ギザギザとしたきめ細かい葉は、空気中の水分を集めるためで、霧などから水分を集めて根元に補給します。花言葉は「高嶺の花」。
見頃:7月~9月

❹ 高山植物を楽しむ際に気を付けたいこと

よく「撮って良いのは写真だけ。残して良いのは足跡だけ。」と言われますが、高山では足もとにも細心の注意を払いたいものです。厳しい条件のもとで生育した高山植物は環境の変化に強いようで弱い部分もあります。写真を撮るだけと言う気持ちで一歩踏み込んだその足もとにやっと根付いたばかりの個体が生えているかもしれません。まだ薄暗いご来光登山の歩行中にも、気を付けたいものです。

乗鞍岳は中部山岳国立公園。当たり前ではありますが、「動植物は捕らない」「登山(木道)コースをはずれない」「ゴミは持ち帰る」などの基本的なルールを守って登山を楽しむとともに、美しい自然を未来に残していきたいですね。