乗鞍高原で出会う スプリング・エフェメラル(春の儚きものたち)

長い冬を経てやっと迎える春。早春の短い一時にだけひっそりと花を咲かせ、木々の新緑が賑やかになる頃には姿を消してしまう。そんな春の妖精とも言える植物がいるのをご存知でしょうか。このような植物のことを「春のはかない命」=「スプリング・エフェメラル(Spring ephemeral)」と言います。
今回は、早春の乗鞍高原で出会えるスプリング・エフェメラルについてご紹介します。

❶ スプリングエフェメラルとは

スプリングエフェメラルは、樹木が葉をつけるずっと前の雪融けすぐの頃に花を咲かせる植物です。その可憐さから「春の妖精」とも言われています。彼らは、まだ他の植物が目覚める前の、太陽の光が地面にたっぷり届くうちに、いち早く太陽の光を利用して花を咲かせて受粉をし、タネを作って養分を蓄えます。そうすることで昆虫たちを独占し、受粉効率を上げているのだそうです。花が咲いてタネが出来るまで、わずか2週間で完結する植物もあります。

このようにスプリング・エフェメラルの植物たちは、春の陽光が広葉樹林に差し込んでくるのをじっと林床の下で待ち、地上に出た後はつかの間の春を謳歌します。エフェメラルは「はかない」「つかの間の」という意味をもつ形容詞であることから、「春の儚きものたち」とも言われます。なんとも趣深い存在です。そんなスプリング・エフェメラルは乗鞍高原でも見つかります。

❷ 乗鞍高原で見られるスプリングエフェメラルの例

乗鞍高原で観察できるスプリングエフェメラルをいくつかご紹介します。

ニリンソウ

キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草で、名前の由来は1つの茎から2つの花茎が伸びて、まず1輪の花を咲かせ、追いかけるようにして2輪目の花が咲くから。若葉は山菜として食用にされますが、有毒植物のトリカブトの若葉に似ているので注意が必要です。初夏が訪れる前までに、出芽・葉の展開・開花・結実を行ったのち、地上部は枯れてなくなり、休眠状態に入ります。秋には翌年のための芽の形成を開始します。

ショウジョウバカマ

春先の代表的な植物で、湿原や明るい日陰(半日)の林帯に生息し、ピンク色の花火のような花がとても目立ちます。ショウジョウバカマの由来は中国伝説の生き物『猩々(しょうじょう)』から来ており猿のような見た目で赤色(猩々色)をしているそうです。
花の色はやや幅があり、白~ピンク~赤紫まで多様。
春だけ花をつけ後は土の中に隠れて、一年の大半を土の中で過ごします。

フクジュソウ

雪どけまもなくの大地で見つけられるキンポウゲ科の多年草です。一番に春を告げるという意味から「福告ぐ草(フクツグソウ)」という名前が江戸時代につけられました。その後、語呂もよくおめでたい「寿」と差し替えられて「福寿草」となったそうです。朽葉色の大地に黄金色の福寿草が咲くと、待ちに待った春が来た!と嬉しくなり、その鮮やかな花色にパッと心まで明るくなります。乗鞍高原では3月頃に花が咲き、6月には葉が枯れて休眠期に入ります。

ヤマエンゴサク

山地の樹林地に生える多年草です。花は形が独特で、先が唇状になっているのが特徴。色は青に近いものから紫色までさまざまです。地下に球形の塊茎(かいけい)があり、春先にそこから地上部に茎を伸ばして花を咲かせます。落葉広葉樹林の若葉が広がる頃には、地上部は枯れて消えてしまい、翌年の春まで地下の塊茎で生きます。

❸ 早春の乗鞍高原へ スプリングエフェメラルに会いに行こう

まだ辺りの植物が目覚める前の静けさが漂うなかで彼らと出会うと、独特の存在感で精いっぱいに花を咲かせるその姿に特別な喜びが感じられるかもしれません。今回ご紹介したスプリングエフェメラルの中には、お泊りの宿によっては庭先で見られることもありますが、あちこち散策に出かけて探すのもおすすめです。
早春の乗鞍高原へ、スプリングエフェメラルに会いに出かけてみませんか?