#32 乗鞍で登山道を整備すること ~たまには山へ恩返し~

中部山岳国立公園にある乗鞍岳・乗鞍高原には、毎年多くの登山者・ハイカーが訪れます。普段何気なく歩いている登山道(歩道)。そこには、実は歩く度に負荷がかかっており、積み重なると無視できないどころか、気づいた頃には大きな道崩れとなり復旧が困難になってしまうことも。また、ハイカーによる踏圧だけでなく、近年頻発しているゲリラ的豪雨などの自然災害によって、道崩れが加速度化している現状もあります。行政の予算やマンパワーに限りがある中で、登山道を健全に管理していくためには、どうすればいいのか?今回は道整備のあり方を模索する取り組みについてご紹介します。

乗鞍で登山道を整備すること~たまには山へ恩返し~

❶ 登山道を整備するって?
❷ 「近自然工法とは」…自然に近づけ・自然に近い方法で
❸ 自然に教えてもらうこと
❹ 新しい 山との関わり方……たまには山へ恩返し

❶ 登山道を整備するって?

乗鞍高原にはいくつもの歩道があり、高原内からは乗鞍岳へ至る登山道も敷かれています。「道なんて整備されていて当たり前でしょ!?」と思われがちかもしれませんが、乗鞍では環境整備にかけるコストや人員が慢性的に不足しているため、メンテナンスに手が回らず、道が崩れていくスピードに整備が追い付かないという課題を抱えています。

そんななか、乗鞍では地元・行政・ハイカーの皆さんと一緒に道整備について考えていけたらと、国立公園を管轄する環境省の声掛けで、歩道整備講習会が行われています(2020年~秋に数回ずつ)。その名も「たまには山へ恩返し in 乗鞍」です。全国各地で整備や技術移転に取り組んでいる北海道山岳整備の方に来ていただき、最近注目を集めている「近自然工法」による道整備について継続的に学ぶ講習会です。

❷ 「近自然工法とは」…自然に近づけ・自然に近い方法で

講師の岡崎先生(北海道山岳整備)は、登山道整備の目的は「浸食と保全のバランスを取り 生態系を保全すること」だと言います。土壌や植物、水や雪がバランスよくあることで成り立っている山の環境。そこに登山道がつくとバランスが崩れ、管理が不足すれば荒廃のきっかけとなることは免れません。「歩きにくいから歩きやすくする」だけではなく、利用によるダメージのスピードを弱めて復元していく保全の速さを上げ、侵食と保全のバランスを取り、生態系を残していくこと。それが登山道整備に求められているのだと。

近自然工法とは、自然界の構造を施工に取り入れて生態系を復元させる方法です。「歩きやすさ」を第一の目的とする一般的な土木の方法とは異なり、崩れた原因を理解し、自然の成り立ちを考えながら施工を行うもの。その場所に合わせた施工を行うことで、歩きやすい道になるだけでなく、自然環境がよみがえり生態系が復元していくのです。

登山道を直す~近自然工法の考え方と技法~
(信越自然環境事務所)

❸ 自然に教えてもらうこと

崩れた現場では、「なぜこんなに崩れたのか」という原因を見極めることがまず最初にやるべきこと。複合している要因に対して、一つずつ優先順位を考え、「どれだけの対応をすれば、どうなるか」という未来を想像しなければならないと岡崎先生は言います。また、自然環境を復元させたい場合、現場にある資材を基本に考えて、現場に合ったものを使うことが求められます。

道直しで必要なのは、「自然の真似をすること」、そのために「自然を観察すること」。現場の自然はどういう風に成り立っているのか、使える資材が周りにどれだけあるか、水の流れは……?「答えは自然の中にある」と岡崎先生。近自然工法は、自然に教えてもらい、浸食を止めて生態系のバランスを保つきっかけを再現しようとしているのです。

近自然工法での登山道整備 動画
Youtube/山守人

❹ 新しい 山との関わり方……たまには山へ恩返し

登山道整備は、公共工事で大きなお金をかけて一度にやるものというよりは、崩れないように予防しながら、崩れる量と保全の量をバランスよく保つために日々維持管理することが大切だと岡崎先生は言います。そのために、乗鞍で私たちには何ができるでしょうか……?まだはっきりとした形は見えていませんが、数回にわたる講習会で見えてきているのは、この乗鞍が大好きで山の恩恵を享受する皆で協力して関わり続けていくことが、可能性の開ける一つの道だということ。

登山道整備講習会に参加した皆さんの様子はというと、皆で試行錯誤しつつ共に汗を流す時間を楽しみ、また岡崎先生の指導の下、山の保全作業に関わることで、歩くだけ・眺めるだけでは得られない山とのつながりを感じる方が多くおられたようです。
「登山道整備」・「自然環境の保全」というと、なかなか難しく重たい課題のようですが、実は謙虚に自然と対話しながら向き合い、より自然とのつながりを深める新しい山との関わり方をもつこととも言えそうです。登山道整備で「たまには山へ恩返し」を。機会があれば、ぜひ私たちとご一緒に、新しい山への関わり方をしてみませんか?

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